1/08/2007

空力....でヒルクライムが速くなる訳ないだろ

機材に頼って、速くなってみようシリーズ。

1. はじめに
自転車の走行抵抗の殆どは、①空気抵抗+②転がり抵抗+③重力 である。

①空気抵抗は速度^2に、②転がり抵抗は速度に比例し、速度はライダーのパワーによる。また、③はコースの勾配、人間と機材の重量によって変わる。さらに、①に対しては、コースにおけるヨー角(車体に対する風向き)の影響が無視できない。ディープリム、エアロフレームなどは、ヨー角が増えるにつれ、より著しく空気抵抗を減少する傾向がある。

よって、ライダーのパワー、コースプロファイルも考慮した、最適な①、②、③の組み合わせとなる機材のチョイスが重要となる。


2. 想定ライダー
筆者のデータより、基準重量として、人間+機材 = 68kg、パワー(FTP)=260Wを想定する。


3. 想定コースプロファイル
コースプロファイルとしては、「つがいけ」(平均勾配~7%)を選んだ。単に、筆者のターゲットレースの一つという理由による。

下図は、2006年同大会における筆者の走行スピード分布である。このコースは全長約17km。特徴は、登り勾配がほぼ単調に続き、10~15kphと15~20kphの走行時間が非常に長く、他のレース(美ヶ原、富士)に見られるような25kph~のハイスピードセクションは殆ど無いこと。よって、低速度域での優劣が重要となる。



4. 各抵抗力に対する機材の影響
以下、各抵抗力に対する機材の影響を、想定ライダーの想定コース走破時間(~1hour)に対して見積もっていく。

①空気抵抗

参考文献[1]によれば、時速27kph前後において、エアロ機材の影響は以下の通りとなる。
・32hカマボコリム → 50mm前後のディープリム
.... -48sec/1hour
・ノーマルフォーク → エアロフォーク
.... -27sec/1hour
・ラウンドチューブフレーム → セミアエロフレーム
.... -40sec/1hour
上記数値は、他の文献に見られる測定値に比してやや大である。これは、[1]では実際のコースを想定し、ヨー角0~15°における平均値を採用しているためである。すなわち、ヨー角が0°に近い条件ほど、タイム削減度合いは小となる。

想定速度域(15kph前後)は上記データ想定の約1/2の速度となる。空気抵抗は速度^2に比例するので、ここは大雑把に(1/2)^2=1/4になると考えると、以下の推測を得る。
・32hカマボコリム → 50mm前後のディープリム
.... -12sec/1hour
・ノーマルフォーク → エアロフォーク
.... -7sec/1hour
・ラウンドチューブフレーム → セミアエロフレーム
.... -10sec/1hour

②転がり抵抗
[2]によれば、最良クラスのクリンチャーとチューブラーは、殆ど転がり抵抗に差が無い。だがチューブラーについては、良好な接着条件(接着剤、塗布方法、乾燥期間)に依存した部分があるので、その分を考慮し、いくつか安定した結果の出ている部分のサンプル(Veloflex Carbon、Crr 0.00312)を比較対象とした。クリンチャーは、Michelin Pro2Light+Latex(Crr 0.00254)を想定する。

[2]のデータに書いてある通り、実路面ではこのCrr値より高くなる。ここではその影響を100%(2倍)と考えた。また、[2]のデータは一輪分なので、これを考慮しさらに2倍する。

上記想定の基、想定速度域15kph前後では、クリンチャーとチューブラーの差は約3Wとなる。
[3]のサイトにより計算すると、想定コース・想定ライダーにおいて、この差は約34sec/hourのタイム差となる。

③重力
同じ50mmハイト前後で比較した場合、典型的な軽量クリンチャーホイールセットは、1450g前後(e.g., Reynolds Stratus, H=46mm)。チューブラーは1250g前後(e.g., ZIPP 404, H=58mm)となる。これにチューブ、タイヤの重量差も考慮して、クリンチャー/チューブラーの差は約300gと想定する。この影響を[3]のサイトにより計算すると、想定コース・想定ライダーにおいて、この差は約12sec/hourのタイム差となる。

エアロフォークについては、たとえばEaston EC90SLX(~300g)→Easton EC90Aero(~380g)に換装することで、約3sec/hourのタイム増。より空力に優れたOvalやCervelo Wolf TTでは、300g近いプラスとなり、約12sec/hourのタイム増。

エアロフレームについては、今日一般的な(非エアロ)軽量フレームが900g前後、「セミエアロフレーム」はいくつかあるが、最良の選択はCervelo SLC-SL(950g)。次点はCervelo SLC(1100g?)か。後者の想定ならば、約200g、8sec/hourのタイム増となる。


5. 考察
チューブラー v.s. クリンチャーという観点では、重量差を考慮しても、現時点では後者が有利(転がり抵抗34sec - 重力12sec = 22sec)。だが接着条件によっては、前者が優位となる可能性は否定できない。また、クリンチャー機材(ホイル、タイヤ)の軽量化が進む可能性もあり、技術動向の継続監視が必要である。

エアロフレームについて言えば、効果は重量見合いと考えられる。エアロフォーク+セミアエロフレームは約-17secのタイム削減が期待できるが、重量によって-5~20secが相殺されてしまう。非常に高価なフレーム(SLC-SL)と比較的軽量なフォーク(EC90Aero, Wolf SL)を用いる場合は約-12secのタイム削減になるが、そうでない場合は使っても使わなくても「トントン」である。特に重いフォーク(Oval, Wolf TT)を用いる場合、+3sec程度のタイム増となる可能性も否定できない。

尚、想定コースより高速型のコースプロファイルでは、転がり抵抗、空力とも影響が大となる。また、環境条件(風向、風速)によって空力の影響が大となる可能性もある。これらを考慮すると、本想定コースでトントンとなる組み合わせならば、より転がり抵抗と空力に優れた組み合わせの方が、他のコースでは有利となるであろう。


参考文献
[1] A.E. Jeukendrup, “High-Performance Cycling, ” Human Kinetics, 2002.
[2] A. Morison, “Al Morrison's Roller Crr Tests rev.3, ” http://biketechreview.com/performance/images/AFM_tire_testing_rev3.pdf, 2006.
[3] http://www.analyticcycling.com/.

6 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

つがいけファン?の自分としてはとても興味深い内容でござった。又、チューブラーフェチ?の小生としては最高の接着条件・・とやらを後日そっと?ご教示願いたい^^; チューブラーの乗り心地の良さという側面は少なからずタイムに貢献すると思うのだが。。 つがいけ2007、師匠の1h切りに期待するよん^^;;

匿名 さんのコメント...

Tublar最高の接着条件については、随分前に書いておられましたね。ツール・ド・フランスで起きたベロキ落車の遠因でもあるのですが。

「ヒルクライムを空力で速くできるか」と、始めっから無理があるお題を、検証するまでもないことをご本人が一番よく分かっておられるのにキッチリ検証し、やっぱりダメだと結論に至っているのがなんだかおかしくて笑ってしまいました。

転がり抵抗によるロスに関しては、クリンチャーが1万円もかからず装着の上手下手もほとんど関係しないところをチューブラーで同じ性能を得ようとすると2万円コースになってしかも装着の上手下手でタイヤの性能が結構スポイルされてしまう。

熟練のメカニックによる装着を期待できないホビーレーサーにとってチューブラーはある意味絵に描いた餅なのかも知れません。

私は好きですけど(笑)

tarmac2006 さんのコメント...

>>Bランク師匠、
そうです、チューブラーで腰をいたわりましょう。

接着条件は、そっともなにも、Track Glueを使えばいいだけですよ。ただ、自分も使い方の記事を見て、「やりたくねー!!」と思ってあきらめました。

Track Glue以外のソリューションは、今度調べておきますね。

tarmac2006 さんのコメント...

>>livestrongさん、
ベロキは実際どうだったのか?はナゾです。もしかするとShellacは熱に強いかもしれない、です。

空力は、ヒルクラでもバカにできませんよ(多分!!)。SLC-SLが欲しいですね~

匿名 さんのコメント...

ベロキ事件に関しては当時のオンセのメカニック関連が口を開かない以上永遠の謎でしょうね。

空力が無視できない速度で坂を登れる人には、バカに出来ないと私も一応思っちょります。私にはまだまだ先の話ですが。

SLC-SLですか。
確かにあの空力レベルであの軽さは驚異的ですね。
「何にでも強いフレーム」の最右翼かと思います。
あの新フォークが謎ですが。

sugaken さんのコメント...

そういえば去年のMt.富士で5合目でP3C見ました(走っているところは見ていませんが)。エアロアドバンテージを狙ってのことでしょうか?(たぶん重量増分が帳消し以上になるのではないかと思いますが)

 

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